優れたリーダーがいても、それだけでは組織は成功しません。リーダーを支え、主体的に行動するメンバーの存在が不可欠です。近年、組織のパフォーマンスを左右する重要な要素として「フォロワーシップ」が注目を集めています。
フォロワーシップとは、単にリーダーの指示に従うだけでなく、組織の目標達成に向けて自律的に考え、行動する姿勢を指します。変化の激しいビジネス環境において、メンバー一人ひとりが主体性を発揮することが、組織の競争力を高める鍵となっているのです。
本記事では、フォロワーシップの基本的な概念から、5つのタイプ、具体的な実践方法まで詳しく解説します。組織の一員として、どのように貢献できるかを考えるきっかけにしていただければ幸いです。
目次
フォロワーシップとは
フォロワーシップの概念を理解するには、まず基本的な定義を押さえることが重要です。組織において、リーダーシップと同様に重要な役割を果たすフォロワーシップについて、詳しく見ていきましょう。
フォロワーシップの定義と重要性
フォロワーシップとは、「チームの成果を最大化させるために、自律的・主体的にリーダーに働きかけ、支援すること」を指します。カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授によって提唱されたこの概念は、組織における部下やメンバーの新たな役割を示しています。
従来の組織論では、リーダーが方向性を示し、フォロワーがそれに従うという上下関係が前提でした。しかし、現代のフォロワーシップは、受動的な追従者ではなく、能動的な協力者としての役割を強調します。組織の成功は、実はメンバーの働きによって9割が決まるとも言われており、フォロワーシップの重要性が高まっているのです。
優れたフォロワーは、単に指示を待つのではなく、組織の目標を理解し、自ら考えて行動します。必要に応じてリーダーに提言し、時には建設的な批判も行います。このような主体的な姿勢が、組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。
リーダーシップとの違いと相互関係
リーダーシップとフォロワーシップは、対立する概念ではなく、相互に補完し合う関係にあります。リーダーシップが「ビジョンを示し、方向性を定める」役割だとすれば、フォロワーシップは「そのビジョンを実現するための具体的な行動を起こす」役割と言えるでしょう。
リーダーシップが組織の「頭脳」として機能するなら、フォロワーシップは「手足」として機能します。ただし、現代のフォロワーシップは単なる実行部隊ではありません。リーダーの決定に対して適切なフィードバックを提供し、必要に応じて軌道修正を促す重要な役割も担っています。
実際の組織では、同じ人物がある場面ではリーダーとして、別の場面ではフォロワーとして機能することもあります。プロジェクトリーダーが、より上位の経営陣に対してはフォロワーとしての役割を果たすケースがその典型例です。重要なのは、状況に応じて適切な役割を果たすことなのです。
メンバーシップとの違い
フォロワーシップと混同されやすい概念に「メンバーシップ」があります。メンバーシップは組織の一員としての意識や帰属感を指し、組織への所属意識が中心となります。一方、フォロワーシップは、より積極的な貢献と主体的な行動を含む概念です。
メンバーシップが「組織に属している」という静的な状態を表すのに対し、フォロワーシップは「組織のために何ができるか」という動的な姿勢を表します。優れたメンバーシップを持つ人が、必ずしも優れたフォロワーシップを発揮するとは限りません。
組織への愛着や忠誠心は重要ですが、それだけでは不十分です。フォロワーシップは、組織の目標達成に向けて具体的な価値を生み出す行動を重視します。批判的思考力と貢献力の両方を備えた、バランスの取れた姿勢が求められるのです。
なぜ今フォロワーシップが注目されているのか
フォロワーシップへの注目が高まっている背景には、ビジネス環境の大きな変化があります。グローバル化やデジタル化の進展により、組織のあり方そのものが変革を迫られているのです。
組織環境の変化とフラット化
従来のピラミッド型組織から、よりフラットな組織構造への移行が進んでいます。階層が減少し、意思決定のスピードが求められる現代において、トップダウンの指示を待つだけでは競争に勝てません。現場レベルでの迅速な判断と行動が、組織の成否を分けるようになってきました。
リモートワークの普及も、フォロワーシップの重要性を高めています。物理的に離れた場所で働くメンバーが増える中、各自が自律的に動き、主体的に貢献する必要性が高まっているのです。上司の細かな指示や監視がなくても、適切に業務を遂行できる能力が求められています。
また、プロジェクトベースの働き方が増えたことも影響しています。固定的な上下関係ではなく、プロジェクトごとに役割が変わる柔軟な組織では、状況に応じて適切なフォロワーシップを発揮することが重要になっています。
チーム全体のパフォーマンス向上への期待
優秀なリーダー一人の力には限界があります。複雑化する課題に対応するには、チーム全体の知恵と力を結集する必要があります。フォロワーシップを発揮するメンバーが増えることで、組織の問題解決能力は飛躍的に向上します。
研究によると、組織の成果の約9割は、リーダー以外のメンバーの働きによって決まるとされています。リーダーがどれだけ優秀でも、それを支え、実行に移すフォロワーの質が低ければ、組織は成功しません。逆に、優れたフォロワーシップを持つメンバーが多い組織は、リーダーの能力を最大限に引き出すことができるのです。
イノベーションの創出においても、フォロワーシップは重要な役割を果たします。現場の最前線で働くメンバーが持つ知見や気づきを、積極的に共有し、提案することで、新たなアイデアが生まれます。トップダウンの発想だけでは限界がある中、ボトムアップの創造性が組織の競争力を高めるのです。
フォロワーシップの5つのタイプ
ロバート・ケリー教授は、フォロワーを「批判的思考力」と「貢献力」の2つの軸で分類し、5つのタイプに分けています。自分がどのタイプに当てはまるかを理解することで、より効果的なフォロワーシップを発揮できるようになります。
模範的フォロワー
批判的思考力と貢献力の両方が高いタイプです。組織にとって最も理想的なフォロワーであり、「パートナー型」とも呼ばれます。自分の頭で考え、主体的に行動し、必要に応じてリーダーに建設的な提言を行います。
模範的フォロワーは、リーダーの右腕として機能します。指示を待つのではなく、組織の目標を理解し、自ら必要な行動を起こします。問題を発見すれば、解決策も含めて提案し、実行まで責任を持ちます。リーダーからの信頼も厚く、重要な役割を任されることが多いでしょう。
ただし、模範的フォロワーになるには高いスキルと経験が必要です。批判的思考力を持ちながらも、組織の調和を乱さない配慮も求められます。建設的な批判と単なる批判の違いを理解し、適切なタイミングと方法で提言する能力が重要です。
孤立型フォロワー
批判的思考力は高いものの、貢献力が低いタイプです。「一匹狼型」とも呼ばれ、独自の視点を持ちながらも、組織への積極的な関与を避ける傾向があります。優れた分析力を持ちながら、それを組織のために活かしきれていない状態です。
孤立型フォロワーは、しばしば「評論家」的な立場を取ります。問題点の指摘は的確ですが、解決に向けた行動を起こさないことが多いのです。組織の方針に疑問を持っても、それを建設的な形で表現せず、内に秘めてしまう傾向があります。
このタイプの人材は、適切なアプローチで大きな戦力になる可能性を秘めています。批判的思考力という貴重な資質を持っているため、貢献意欲を高める働きかけが重要です。意見を求められる機会を増やし、提案が実現する経験を積むことで、模範的フォロワーへと成長する可能性があります。
順応型フォロワー
貢献力は高いものの、批判的思考力が低いタイプです。「イエスマン型」とも呼ばれ、リーダーの指示に忠実に従いますが、自分の意見を持たない、または表現しない傾向があります。組織への忠誠心は高く、与えられた仕事は確実にこなします。
順応型フォロワーは、安定した環境では問題なく機能します。しかし、変化の激しい状況や、創造性が求められる場面では限界があります。リーダーの判断が誤っている場合でも、それを指摘できないため、組織全体が誤った方向に進むリスクがあるのです。
このタイプの改善には、批判的思考力の育成が必要です。「自分だったらどうするか」を考える習慣をつけ、小さなことから意見を述べる練習をすることが大切です。失敗を恐れず、建設的な提案を行う勇気を持つことで、より価値の高いフォロワーへと成長できます。
消極的フォロワー
批判的思考力も貢献力も低いタイプです。「無気力型」とも呼ばれ、組織への関心が薄く、最低限の仕事しかしない傾向があります。指示されたことは行いますが、それ以上の貢献は期待できません。
消極的フォロワーは、組織にとって大きな課題となります。生産性が低いだけでなく、周囲のモチベーションにも悪影響を与える可能性があります。ただし、本人に能力がないわけではなく、環境や動機づけの問題であることも多いのです。
改善のためには、まず本人の興味や強みを見つけることから始めます。小さな成功体験を積み重ね、自信を回復させることが重要です。また、組織への帰属意識を高める取り組みも効果的でしょう。適切なサポートと機会があれば、他のタイプへと成長する可能性は十分にあります。
実務型フォロワー
批判的思考力と貢献力が中程度のタイプです。「リアリスト型」とも呼ばれ、バランスの取れた現実的なアプローチを取ります。過度に批判的でも盲従的でもなく、状況に応じて柔軟に対応します。
実務型フォロワーは、多くの組織で中核を担う存在です。派手さはありませんが、安定した成果を出し続けます。リスクを適切に評価し、現実的な解決策を提案する能力があります。組織の安定性を保つ上で重要な役割を果たしています。
このタイプは、さらなる成長の可能性を秘めています。批判的思考力と貢献力のどちらかを意識的に高めることで、模範的フォロワーへと近づけます。自分の強みを認識し、それを伸ばす努力を続けることが、キャリア発展の鍵となるでしょう。
フォロワーシップを発揮するための具体的な行動
フォロワーシップは概念を理解するだけでは不十分です。日々の業務の中で、具体的な行動として実践することが重要です。ここでは、すぐに始められる実践的な行動例を紹介します。
主体的な業務遂行と改善提案
優れたフォロワーは、指示を待つのではなく、自ら仕事を見つけて取り組みます。「これは自分の仕事ではない」という考えを捨て、組織全体の成功のために何ができるかを常に考えます。担当業務の枠を超えて、積極的に貢献する姿勢が重要です。
日常業務の中で改善点を見つけたら、具体的な解決策とセットで提案します。「問題がある」と指摘するだけでなく、「こうすれば改善できる」という建設的な提案を心がけましょう。小さな改善の積み重ねが、組織全体の効率化につながります。
また、自分の専門分野の知識を積極的に共有することも大切です。チーム内で勉強会を開いたり、有益な情報をまとめて共有したりすることで、組織全体のレベルアップに貢献できます。知識の独占ではなく、共有によって価値を生み出すのです。
建設的な批判と提言
リーダーの判断が常に正しいとは限りません。優れたフォロワーは、必要に応じて建設的な批判を行います。ただし、批判のための批判ではなく、組織の成功を願っての提言であることが重要です。
批判を行う際は、タイミングと方法に配慮します。公の場での批判は避け、適切な場で冷静に意見を述べましょう。感情的にならず、事実とデータに基づいた論理的な説明を心がけます。代替案も用意しておくと、より建設的な議論ができます。
提言が採用されなくても、決定には従います。フォロワーシップは反逆ではありません。組織の決定を尊重しつつ、より良い結果を出すために全力を尽くす姿勢が大切です。批判的思考と組織への忠誠のバランスを保つことが、優れたフォロワーの条件です。
チーム全体への貢献意識
フォロワーシップは、リーダーとの関係だけでなく、チーム全体への貢献を含みます。同僚のサポート、新人の教育、チームの雰囲気づくりなど、様々な形で貢献できます。自分の成功だけでなく、チーム全体の成功を考えて行動します。
困っている同僚がいれば、積極的に手を差し伸べます。自分の知識や経験を惜しみなく共有し、チーム全体のスキルアップに貢献します。競争ではなく協力の精神で、お互いを高め合う関係を築くことが重要です。
リーダーの方針や決定事項を、チーム全体に正確に伝える役割も担います。単なる伝達係ではなく、メンバーの理解を促し、疑問に答え、実行を支援します。リーダーとメンバーの橋渡し役として、組織の一体感を高めることができるのです。
フォロワーシップを育む組織づくり
個人の努力だけでは、フォロワーシップは十分に発揮されません。組織として、フォロワーシップを育む環境を整えることが重要です。ここでは、組織が取り組むべき施策について解説します。
心理的安全性の確保
フォロワーシップの発揮には、心理的安全性が不可欠です。失敗を恐れず意見を言える環境、批判的な提言も受け入れられる文化がなければ、メンバーは主体的に行動できません。
管理職は、メンバーの意見に耳を傾ける姿勢を示す必要があります。反対意見も含めて、様々な視点を歓迎する態度を明確にしましょう。「なぜそう思うのか」を丁寧に聞き、建設的な議論を促進します。批判を個人攻撃と受け取らない成熟した組織文化が重要です。
失敗に対する寛容さも必要です。新しい挑戦には失敗がつきものですが、それを学習の機会として捉える文化を醸成します。失敗から学んだことを共有し、組織全体の知見として蓄積することで、より強い組織へと成長できます。
評価制度への反映
フォロワーシップを組織に定着させるには、評価制度への反映が効果的です。個人の成果だけでなく、チームへの貢献度も評価項目に加えることで、フォロワーシップの重要性を明確に示せます。
360度評価の導入も有効です。上司からの評価だけでなく、同僚や部下からの評価も含めることで、多面的な貢献が可視化されます。建設的な提言の数や質、チームサポートの実績なども評価対象とすることで、フォロワーシップの発揮を促進できます。
評価の透明性も重要です。どのような行動が評価されるのかを明確にし、具体例を示すことで、メンバーは安心してフォロワーシップを発揮できます。評価基準を共有し、定期的にフィードバックを行うことで、継続的な成長を支援します。
教育・研修プログラムの導入
フォロワーシップは天性の資質ではなく、学習可能なスキルです。組織として体系的な教育プログラムを提供することで、メンバーのフォロワーシップを効果的に向上させることができます。
研修では、フォロワーシップの概念理解から始め、自己診断、スキル開発へと段階的に進めます。ロールプレイやケーススタディを通じて、実践的なスキルを身につけます。批判的思考力の養成、建設的な提言の方法、チームワークの向上など、具体的なスキルを習得します。
OJT（On-the-Job Training）も重要です。日常業務の中で、上司や先輩がフォロワーシップの模範を示し、実践の機会を提供します。メンター制度を活用し、経験豊富なメンバーが若手の成長を支援する仕組みも効果的でしょう。
まとめ
フォロワーシップは、現代の組織において欠かせない概念です。リーダーシップと同様に重要であり、むしろ組織の成果の大部分を左右する要素と言えます。単に指示に従うのではなく、主体的に考え、行動し、組織の成功に貢献する姿勢が求められています。
ロバート・ケリーの5つのタイプ分類を理解し、自分の現在地を把握することから始めましょう。批判的思考力と貢献力のバランスを意識し、模範的フォロワーを目指して成長を続けることが大切です。
フォロワーシップの実践は、小さな一歩から始められます。日々の業務で主体性を発揮し、建設的な提言を行い、チーム全体の成功を考えて行動する。これらの積み重ねが、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
組織としても、フォロワーシップを育む環境づくりが重要です。心理的安全性の確保、評価制度への反映、教育プログラムの導入など、様々な施策を通じて、メンバーの主体性を引き出すことができます。
変化の激しい時代において、全員がリーダーシップとフォロワーシップの両方を発揮できる組織こそが、持続的な成功を収めることができるでしょう。一人ひとりがフォロワーシップの重要性を認識し、実践することで、より強く、より柔軟な組織を作ることができるのです。