リーダーシップを発揮する際、「成果を重視すべきか、それともチームの和を大切にすべきか」という悩みを抱える管理職の方は多いのではないでしょうか。このようなリーダーシップの課題に対して、明確な指針を示してくれるのが「PM理論」です。
PM理論は、日本の社会心理学者である三隅二不二氏が1966年に提唱したリーダーシップ理論で、リーダーの行動を「目標達成機能（P機能）」と「集団維持機能（M機能）」の2つの軸で分析します。この理論を理解することで、自身のリーダーシップスタイルを客観的に把握し、より効果的なマネジメントを実現できるようになります。
本記事では、PM理論の基本概念から4つのリーダーシップタイプの特徴、そして各機能を高める具体的な方法まで、実践的な視点で解説していきます。
目次
PM理論とは？日本発のリーダーシップ理論
PM理論は、Performance（目標達成機能）とMaintenance（集団維持機能）の頭文字を取って名付けられた、リーダーシップに関する行動理論です。1960年代の高度経済成長期に、日本企業の組織運営の実態を踏まえて開発されたため、日本の組織文化に適合しやすいという特徴があります。
P機能（Performance function）：目標達成機能
P機能は、組織やチームの目標を達成するための機能です。具体的には以下のような行動が含まれます。
- 明確な目標設定と計画立案
- 業務の進捗管理と課題解決
- 成果に対する評価とフィードバック
- 効率的な業務プロセスの構築
- リソースの適切な配分
M機能（Maintenance function）：集団維持機能
M機能は、チームの人間関係を良好に保ち、組織を維持・発展させる機能です。以下のような行動が該当します。
- メンバー間のコミュニケーション促進
- 個々のメンバーへの配慮と支援
- チームの雰囲気づくり
- 対立や摩擦の調整
- メンバーのモチベーション向上
PM理論における4つのリーダーシップタイプ
PM理論では、P機能とM機能の高低の組み合わせによって、リーダーシップを4つのタイプに分類します。それぞれのタイプには固有の特徴があり、組織への影響も異なります。自身がどのタイプに該当するかを理解することで、強みを活かしつつ弱点を補強する方向性が見えてきます。
PM型（理想的なリーダー）
P機能もM機能も高いPM型は、最も理想的なリーダータイプとされています。目標達成への強い意志と、メンバーへの配慮を両立させることができます。
PM型リーダーの特徴：高い業績を上げながら、チームの満足度も高い状態を維持できる。離職率が低く、イノベーションが生まれやすい組織環境を作ることができる。
Pm型（成果重視型リーダー）
P機能が高く、M機能が低いPm型は、成果や効率を重視するタイプです。短期的には高い成果を上げますが、長期的にはチームの疲弊を招く可能性があります。
pM型（人間関係重視型リーダー）
P機能が低く、M機能が高いpM型は、チームの和を大切にするタイプです。働きやすい環境は作れますが、成果が上がりにくいという課題があります。
pm型（未熟なリーダー）
P機能もM機能も低いpm型は、リーダーシップが未発達な状態です。早急な改善が必要で、研修や上司からの指導が重要になります。
P機能を高める実践的な方法
目標達成機能であるP機能を向上させるためには、戦略的思考と実行力の両方を強化する必要があります。多くの日本企業では、協調性を重視するあまりP機能が弱くなりがちですが、グローバル競争の中では成果を出す力がますます重要になっています。
P機能向上のための5つのステップ
1. 明確な目標設定：SMARTの法則（具体的・測定可能・達成可能・関連性・期限）に基づいて目標を設定する
2. 優先順位の明確化：重要度と緊急度のマトリクスを使って業務を整理する
3. 進捗の可視化：ガントチャートやカンバンボードを活用して進捗を見える化する
4. PDCAサイクルの徹底：計画・実行・評価・改善のサイクルを短期間で回す
5. 成果の定量化：KPIを設定し、定期的に測定・分析する
M機能を高める実践的な方法
集団維持機能であるM機能は、チームの持続的な成長と成功に欠かせない要素です。特に多様性が重視される現代の組織においては、メンバー一人ひとりの個性を尊重しながら、チーム全体の一体感を醸成することが求められます。
心理的安全性を高めるには？
失敗を学習の機会と捉える文化を作り、メンバーが意見を言いやすい環境を整えることが重要です。定期的な1on1ミーティングの実施や、感謝を伝え合う習慣づくりも効果的です。
コミュニケーションを活性化させるには？
朝礼での情報共有、ランチミーティング、チームビルディング活動など、業務外でも交流できる機会を設けることが大切です。オンラインでのコミュニケーションツールも積極的に活用しましょう。
PM理論の企業での活用事例
PM理論は理論にとどまらず、多くの日本企業で実践されています。特に製造業やサービス業において、組織力向上のフレームワークとして活用されている事例を見ていきましょう。
本田技研工業の事例
ホンダでは、PM理論を基にしたリーダーシップ研修を実施しています。特に新任管理職に対して、P機能とM機能のバランスを意識したマネジメントスタイルの確立を支援しています。
日立製作所の事例
日立では、グローバル展開に伴い、PM理論を発展させた独自のリーダーシップモデルを構築しています。文化的背景の異なるメンバーをまとめる際に、M機能の重要性が再認識されています。
まとめ：PM理論を活用した組織力向上のポイント
PM理論は、リーダーシップを「目標達成」と「集団維持」の2つの機能で捉えるシンプルでありながら実践的な理論です。自身のリーダーシップタイプを理解し、不足している機能を意識的に強化することで、より効果的なマネジメントが可能になります。
重要なのは、P機能とM機能のどちらか一方に偏るのではなく、状況に応じて両方の機能を適切に発揮することです。組織の成熟度、業界特性、チームメンバーの特徴などを考慮しながら、最適なバランスを見つけていくことが、真のリーダーシップにつながります。